EXECUTIVE PROFILE — INTERVIEW
本気で打ち込めば、
人は輝く。
~現場の下積みから学びの場へ。独自の歩みから紐解く覚悟のリーダーシップ~
グロービス経営大学院で共に学ぶ中で、これまで歩んでこられた道のりについて、あらためて話を聞く機会をいただいた。 居酒屋の厨房から始まり、独立、そして今も学び続ける姿勢まで——語られた言葉の一つひとつに、 環境や損得に左右されない、まっすぐな軸があった。ここに、その記録を残したい。
PROFILE — CAREER TIMELINE
加納 明 ── 経歴の軌跡
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22歳〜
奈良の人気居酒屋で修行
月間1万人規模の集客を誇る居酒屋のキッチンで、約2年半にわたり修業。接客と調理の基礎を徹底的に叩き込まれる。
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25歳〜
上京、都内激戦区での現場責任者
都内でも屈指の競争が激しいエリアで、店舗の案内を担う部署に7年ほど従事し、責任者を務める。
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30代前半
不動産業界への転職、そして大阪拠点の立ち上げ
約1年、不動産業界で営業を経験したのち古巣に復帰。責任者として大阪エリアの新規立ち上げを牽引し、成功を収める。
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独立
単身での起業
資金力のある後輩からの共同経営の誘いを固辞し、納得感を優先して一人で起業する道を選ぶ。
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現在
株式会社DIC 代表取締役として12店舗を経営
グロービス経営大学院に通いながら、週15時間ほどの予習を重ねて学び続けている。
目の前のことに全力を注ぐ ── 環境への言い訳を捨てる
Q. キャリアの原点について教えてください。
22歳から2年半ほど、ある地方都市で月間1万人規模のお客様にお越しいただく、大変人気の高い居酒屋の厨房で修業を積みました。当時の店主は、元々別の業界で第一線の実績を残していたという、非常にカリスマ性のある方でした。そこで接客と調理の基礎を徹底的に叩き込んでいただいたことが、今の私の礎になっています。おかげさまで、今でも厨房に立ち料理を作ることができますし、メニュー開発を自ら行う土台にもなりました。
Q. その後、上京されてご苦労も多かったと伺いました。
はい。25歳で上京し、新宿や渋谷、池袋といった、都内でも屈指の競争が激しいエリアで、7年ほど店舗の案内を担う部署に身を置き、最終的には責任者を任されるまでになりました。当時は業界全体が落ち着かない状況で、お客様にご満足いただけず、厳しいお叱りを受けることも少なくない、決して恵まれた環境とは言えない世界でした。
しかし、たとえ華やかに見えない仕事であっても、そこで働く仲間たちが持てる力のすべてを注いで真っ直ぐに取り組む姿を目の当たりにし、確信したことがあります。周囲からどう見られるかということよりも、本気で打ち込むこと自体に価値がある。「本気で打ち込めば、人は輝く。」それが、あの現場で私が掴んだ、揺るぎない実感です。がむしゃらに取り組み続けた結果として、次第に周囲からも実績を認められるようになっていきました。
KEY INSIGHT
環境を「言い訳」ではなく「意味を作る余地」として扱う
優れた経営者ほど、環境を言い訳の対象にせず、意味を作り出す余地として捉えています。恵まれた場でしか力を発揮できない人材は、組織が大きくなるほど脆さを見せる。どんな持ち場でも本気になれるという原体験こそが、後にどんな逆境でも組織を率いられる土台になります。
自分に嘘をつかないための独立 ── 損得で己を曲げない
Q. 一度会社を離れて別の業界を経験されたのち、再び元の会社に戻って新拠点の立ち上げに奔走されていますね。実績を上げられたのになぜ独立を決意されたのでしょうか?
はい。一度会社を離れ、約1年ほど不動産業界を経験したのち、再び古巣に戻り、今度は大阪エリアの新規立ち上げを任されて、大きな実績を残すことができました。ただ、会社が300名、400名という規模に拡大していく過程で、社内に政治的な動きが強まっていき、私自身も本意ではない扱いを受けることになりました。その頃、同業のライバル企業から好条件でのヘッドハントのお誘いをいただくこともありましたが、「お金のためだけに、それまで築いてきたものを手放すのは、自分の美学に反する」と考え、すべてお断りいたしました。
Q. そこから、どのようにご自身の会社を立ち上げることになったのですか?
当時、資金力のある後輩から「一緒に経営をしてほしい」と熱心に誘いを受けました。しかし話を進める中で、「相手に気を遣いながら仕事を進めることは、自分には合わない」と感じ、丁重にお断りしました。人生は一度きりですから、大切な判断や自分が納得できない部分は譲りたくない、という思いがあります。結局、その後輩とは一緒に歩まず、単身で起業いたしました。
KEY INSIGHT
意思決定の質は「損得」ではなく「納得」で決まる
経営における意思決定の質は、平時にどれだけ損得ではなく納得を判断基準にできているかで決まります。条件に流されて選択を重ねる人は、いざという修羅場で自分の言葉で説明できる決断ができない。ここでの美学の一貫性が、後の判断の速さと一貫性を支えています。
誠実に、正面から向き合う
Q. 起業直後には、いろいろなご苦労もあったと伺いました。
はい、起業した直後、同じエリアで事業を営む競合から、実在しない団体のご予約を大量に入れられるなど、営業を妨害するような厳しい行為を受けたことがありました。しかし逃げることなく、「ここが正念場だ」と覚悟を決め、二ヶ月ほどかけて対応を練り、正面から話し合いに臨みました。誠意を尽くして向き合った結果、最終的にはお互いに深く理解し合うことができました。その証に、2年前の私の結婚式には、かつて対立していた相手側の方も含め、50人近くが参列してくださいました。不思議な縁があるものだ、と今でも思っています。
Q. 社内で問題が起きた時は、どのように対処されているのですか?
先日も、ある拠点の代表者に望ましくない対応が見受けられたため、体制を見直しました。店舗への影響を考えると迷いもありましたが、何を大切にするかという軸に照らして、すぐに判断しました。私が最も大切にしているのは誠実さです。表向きは「リスクを取る」ともっともらしく口にしながら、実際には自分の身を守るために都合の悪い事実を隠す──そうした振る舞いだけは、どうしても見過ごせません。たとえ会社にとって厳しい判断となっても、そこだけは譲れません。それが、共に働く仲間に対する、私なりの誠意だと考えています。
KEY INSIGHT
誠実さを「コスト」ではなく「資本」として運用する
誠実さを短期のコストではなく、長期の資本として扱えるかどうかが、経営者の器を分けます。目先の損失を恐れて隠蔽や妥協を許した組織は、いずれもっと大きな代償を払うことになる。ここで示されているのは、誠実さを規律として運用する経営スタイルです。
自らの意思を問う ── 社員に求める覚悟
Q. モチベーションという言葉について、独自の考えをお持ちだと伺いました。
山に登る時、「今日登るモチベーションは何ですか」といちいち考える人はいません。ただ目の前の山に向き合い、登り、下りる。それだけです。モチベーションとは「やる気があるかないか」という話であり、私自身はあまり重視しておりません。よく「モチベーションを上げる」という取り組みが行われますが、そこには一つの落とし穴があると考えています。たとえば子供への愛情も、あえて高低を測る「物差し」を作ってしまうと、その数値が下がった瞬間に「愛されていない」という錯覚が生まれてしまう。
モチベーションもこれと同じで、目盛りを作った途端に、人はその上下に振り回されてしまうのです。本来問うべきは、上がったか下がったかではなく、やるか、やらないか。その一点に意識を集中させることの方が、よほど本質的だと思うのです。モチベーションというのは、後になって思い出したり、後付けで語られたりすることの方が多いのではないでしょうか。それ自体は、決して悪いことではないと思っています。
Q. メンバーがキャリアや仕事で迷っている時は、どう声をかけるのですか?
会社のために残ってほしいと説得するのではなく、「あなたはどうしたいですか。心の底から思っていることや、やりたいことを、まずは教えてください」と、あえて選択を本人に委ねます。私は決して見捨てませんし、嘘もつきません。だからこそ、あなた自身の本心を聞かせてほしい――そう、真摯に問いかけるようにしています。
KEY INSIGHT
説得ではなく「当事者意識」を設計する
人を動かす経営者ほど、説得ではなく、本人の意思決定を尊重することに軸足を置いています。相手の当事者意識を奪わずに、自分の言葉で選ばせる関わり方は、短期的には非効率に見えても、長期的には自律した人材を育てる最も確実な方法です。
現在進行形の挑戦 ── 次の景色を見るための学び
株式会社DIC ── BRANDS
Q. 現在、多忙な中でグロービス経営大学院に通い、勉強に多くの時間を費やされている原動力は何ですか?
毎週15時間ほどを予習に充てていますが、根底にあるのは、書物に親しみ、歴史に精通した大人の姿に対する、純粋な憧れです。それと同時に、自らの知識や視座を高め続けなければ、これからの時代に商売で通用しなくなるという危機感、そして「次の景色」を見たいという願いがあります。事業で成果を出し、規模を拡大し、出会う人々の層を変えながら、見える景色そのものを変えていきたいと考えています。
Q. 最後に、今後の組織の展望を教えてください。
働くということは、突き詰めれば、雇用される側か、雇用する側か。道は大きく二つしかないと考えています。若いメンバーが漠然とした夢を語ることがありますが、今いる場所で本気になれない者が、環境を変えたところで急に輝けるわけではない、と伝えています。プロ野球選手であれ、飲食業であれ、トッププレイヤーから一番下まで、すべては地続きのグラデーションなのです。これからも、今の環境で誠実に努力を重ねられる仲間たちと共に、将来的には事業の規模を大きく広げながら会社を成長させ、これから力を発揮していく優秀な人材を迎え入れていきたいと考えています。
KEY INSIGHT
学び続ける姿勢は「自己満足」ではなく「リスク管理」
成功した経営者ほど、自らの経験則が通用しなくなるリスクに敏感です。学び続ける姿勢は自己満足ではなく、変化の速い市場で優位性を失わないための、極めて実務的なリスクマネジメントだと言えます。
株式会社DIC ── BRANDS